ファミコン世代のみなさん、こんにちは。
1988年2月10日、水曜日。あの日、学校の教室の空気は異常でしたよね。
クラスの誰かが「ドラクエ3」を手に入れた。
ただそれだけで、その子は英雄扱いでした。
今回は、社会現象を巻き起こした名作『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』のフィールド曲、「冒険の旅」をご紹介します。
この曲は、単なるBGMではありません。
私たち当時の子供たちが体験した「熱狂」と、ふとした瞬間に訪れる「絶望(データ消失)」、そのすべてを包み込んでくれる人生の応援歌です。
なぜこの曲を聴くと、今でも胸が熱くなるのか?
すぎやまこういち先生がファミコンの3音に込めた「魔法」を紐解いていきます。
| 基本データ | 内容 |
|---|---|
| ゲームタイトル | ドラゴンクエストIII そして伝説へ… |
| 発売年 | 1988年 |
| 機種 | ファミコン (FC) |
| 作曲者 | すぎやまこういち |
| 曲名 | 冒険の旅 (フィールドBGM) |
『ドラゴンクエストIII』冒険の旅を聴いてみよう
まずは、勇者ロトの伝説を彩ったこの名曲をお聴きください。
※出典:[交響組曲『ドラゴンクエストⅢ』冒険の旅 – ブラスエクシードトウキョウ / 『Dragon Warrior III』 Adventure – BRASS EXCEED TOKYO]
1988年2月10日、あの日何が起きたか?
この曲を語る前に、当時の「異常な熱気」を振り返らなくてはなりません。
当時、私は小学2年生。
発売日のニュース映像を見て衝撃を受けました。ビックカメラ池袋店には、徹夜組を含めて1万人以上の大行列。その列は2キロにも及んだそうです。
「ドラクエ狩り」という物騒な言葉が生まれ、東京都の教育委員会が「学校を休んで買いに行かないように」と通達を出すほどの社会現象。それでも、当日だけで都内で300人以上の学生が補導されたとか。
手に入れたYくんの家に集まり、カセットを本体に差し込む瞬間の緊張感。
そして、最初の城「アリアハン」を一歩出た瞬間、この『冒険の旅』が流れた時の鳥肌。
あの体験は、一生忘れられない原体験です。
なぜこの曲は「勇ましい」のか?(開発秘話)
ドラクエ1のフィールド曲は孤独な「広野を行く」、ドラクエ2は哀愁漂う「遥かなる旅路」でした。
しかし、ドラクエ3の『冒険の旅』は、最初からクライマックスのように勇ましい行進曲です。
実はこれには、ファミコン特有の「容量の都合」が関係していました。
当初の構想では、物語の前半はもっと寂しげな曲にする予定だったそうです。しかし、ロムカセットの容量不足で曲を減らさざるを得なくなり、結果として「最初から最後までこの勇ましい曲」一本で行くことになりました。
しかし、これが怪我の功名でした。
これまでのシリーズとは違う「力強いイントロ」が流れることで、プレイヤーに「今回は何かが違う」「これは伝説の始まりなんだ」という強い予感を植え付けることに成功したのです。
すぎやまこういち氏の魔法:たった3音のオーケストラ
音楽的な視点で見ると、この曲はファミコン音楽の最高到達点の一つです。
すぎやまこういち先生は、「音が少ないから作曲できないというのはプロではない」という名言を残しています。
- クラシックの対位法
ファミコンは同時に3つの音(メロディ2音+ベース1音)しか鳴らせません。しかし、すぎやま先生はクラシック音楽の技法(対位法)を使い、それぞれの音が独立したメロディとして絡み合うように作りました。 - ベースラインの凄さ
耳を澄ませて「低い音(ベース)」だけを追ってみてください。単調なリズムではなく、ベース自体が歌うように動いているのがわかります。これが曲全体にオーケストラのような厚みを与えています。 - 擬似和音(アルペジオ)
「パラララッ」と高速で音を分散させて鳴らすことで、聴く人の耳には「和音(ジャラーン)」が鳴っているように錯覚させる技術も多用されています。
先生の頭の中には常にオーケストラが鳴っていて、それをファミコンという限られた楽器でどう再現するかを楽しんでいたそうです。
そして訪れる「おきのどくですが……」
この曲の思い出を語る上で避けて通れないのが、あの呪いのメッセージです。
「おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました」
カセットを起動した瞬間、不気味なSEと共に画面に表示される文字。
必死にレベルを上げ、バラモスを倒し、やっとゾーマの城が見えてきた……そんな矢先のデータ消失。
あの時の絶望感は筆舌に尽くしがたいものがありました。しかし、不思議なことに、私たちはそこで諦めませんでした。
泣きながらもう一度「冒険の書をつくる」を選び、アリアハンの城を出て、再びこの『冒険の旅』を聴いた時。
「よし、もう一回やるぞ!」
と、不思議と力が湧いてきたのを覚えています。
この曲が持つ圧倒的なポジティブさが、何度データを消されても立ち上がる勇気をくれたのかもしれません。
まとめ
今回は、『ドラゴンクエストIII』の伝説的なフィールド曲を紹介しました。
- 社会現象の中で聴いた、冒険の始まりのファンファーレ
- 容量不足が生んだ、全編クライマックスの勇ましさ
- すぎやまこういち氏による、3音のオーケストラ革命
そして何より、データが消える絶望すら乗り越えさせてくれた名曲です。
みなさんは、この曲を聴くとどんなパーティ編成を思い出しますか?
「遊び人を連れて行った」「黄金の爪を取るのに苦労した」など、当時の思い出をぜひコメント欄(心の中でOKです!)で反芻してみてください。
そしてもし、今の生活で何かに躓いた時は、サブスクや動画でこの曲を聴いてみてください。
きっとあの頃のように、もう一度立ち上がる勇気をくれるはずです。
